はあちゅうさんの最新刊、「仮想人生」を読みました。
手にとってまず、本の厚みに驚きました。
この本はぜひ、紙で読んでほしい‥!
物語に出てくる5人の人生がぎっしり詰まっているのを感じることができます。
この作品では、登場人物たちに共感しながら、twitterの裏アカという知らない世界をのぞくことができるんです。
Contents
きれいごとのない世界
急に人の心の中が見える能力を得たらきっとこんな光景を見るんだろう
twitter、特に裏アカって、人の心の中がだだもれで、手のひらの中でタップするだけで簡単にのぞけてしまう。
ひとりひとりの欲望がむき出しになっていて、読んでいくうちにどんどん登場人物たちの心情に引き込まれていきます。
それぞれの寂しさ
人の気持ちを想像すること
登場人物がそれぞれ、バラバラの寂しさを抱えてるんですよね。
中には、もし普段見かけたとしても
「この人、きっと何不自由なく生きてるんだろうな」
と通り過ぎてしまいそうな人もいたりして。
この作品では、それぞれの立場からの寂しさが描かれてるんです。
例えば「結婚して何不自由なく暮らしてる人」ってすべてが満たされているように思えるけど、実はその人なりの寂しさだってある。読んでいると
「あ、わたし人の一面だけを見て判断してたかもしれない」
と、少し反省しました。人はいろんな一面を持ってるんですよね。
きれいごとだけではいられないときだってある。
日々いろんなニュースがあるけれど、自分の価値観で決めつけずに、せめて人の感情に想像をめぐられられる人でありたいと思いました。
「寂しい日常をどう埋めるか」が人生
楽しさや高揚は一瞬でしかない。その後に淡々と続く寂しく物足りない日常をどう埋めるかが人生を過ごすということではないだろうか。
この部分、ささりました‥。
ふと感じる寂しさって、きっと無くせないんだろうな。
でも、逆に華やかな時間が輝くのも、普段の寂しく物足りない日常があるからこそだったりするから。
思い出すたびにそっと自分に寄り添ってくれそうな、ステキな言葉です。
ネットと現実
今冷静な気持ちで見ると、みんなくだらないことでぎゃあぎゃあ言っていて、バカみたいだ
ユカが裏アカから目の覚めるこの部分、なんだか身に覚えがありました。
ネットを見すぎて、現実の自分が悪い方に影響を受けてしまう感じ。
ネットってあくまで現実の世界をより豊かにするためのものであって、そこに振り回されて右往左往させられるためのものじゃない。
「ネットの世界にどっぷりな物語かな?」と思っていたら、すこし引いた視点から見ている部分もあって面白いんです。
もし違う人生を歩めたら‥
もう一人の自分
登場人物たちが、ネットの中にもう1つの人生をつくることで自分を保っているところ、とても共感できました。
わたし自身、小さい頃から自分のことがあまり好きではなくて。
「もし自分が、今とは全然違う人間だったら‥?」
と妄想することで、救われたことが何度もあったんです。
一方で、「妄想だけで終えずに、実際に行動に移す人もいるんだ!」という驚きもありました。
面白そうだけれど、自分で実際にやってみるのは、やっぱりちょっと怖かったり。
「はあちゅうさんや登場人物たちの行動力ってすごいな‥!」と思わされたし、自分では経験しえなかった世界だからこそ、読んでいて面白い‥!
リセット願望
自分は自分から逃げられないと覚悟を決めて、今持っているものを、更新しながら生きていくしかないじゃん。
この作品を読んでいて気になるのは、ユカの夫の恭平についてです。
彼は「もう1つの人生をつくる」のでは足りなくて、今あるすべてをリセットしたくなってしまったんですよね。
私はふだん「自分のこと好きじゃないな」とか、「過去にもっと、別の選択をしていれば‥」とか思うことはしょっちゅうあるんです。でも
「もし本当に、今ある自分や周りの人が、何もかも消えてしまったら」
と改めて想像してみて、それは望んでないってことに気づかされました。
人生なんて自己肯定のための旅ですよ
わたしは今の自分は捨てられないし、本当は捨てたくもなくて。
“自分自身のままで、少しずつ自分を肯定できるように生きていこう”と思いました。
何度か読み返したい作品
歳を重ねるごとに”寂しい”っていう気持ちは複雑になっていく気がします。
「何歳までに、こうならなきゃいけない」という強い圧力を感じて、そこにハマれない自分に焦ったり。
でも、みんなそれぞれに寂しさだって抱えて生きてるなら、人を羨ましがる必要なんてなくて。
自分は自分の人生と向き合って生きていくしかないんだって思えました。
ストーリーはもちろん、登場人物たちの仕事への向き合い方も素敵だったりと、色んな視点で何度も読み返したい作品です。